クリーナー
第2話/全6話
急転
ローランド・ベニートとマーク・ハルドバーグが、ホルセンスからオーフス中央駅近くにある警察苦情処理独立団体(IPGU)本部に戻ると、太陽が昇っていた。
「今回の緊急事案は、簡単に片付くだろう。殺人の痕跡はないし、2人の警官が関与してる可能性もなさそうだ」自殺のあった建物を出てからずっと押し黙っていたマークが口を開いた。刑務官のジュリアス・ハベコストが、その4階の窓から飛び降りたのだった。
「レイフ・スコウビーを単独で部屋に踏み込ませたことに関しては、ジョージ・マーシュに軽い注意を与えるべきだろう。騒音を通報してきた隣の部屋の女性と階段で話し込んでたんだからな」
マークが疲れきった表情で微笑んだ。
「彼女のおしゃべりに捕まったら、簡単には逃げられない。僕たちもそれを思い知らされた」
ローランドも微笑んだ。80歳近い未亡人のアスタ・バーントは、なかなか面白い女性だった。往年のテレビドラマ「マタドール」から抜け出してきたような風貌だが、そこに登場する2人の老女のうち、どちらによく似ているのか、ローランドは定かではない。そんな印象を抱いたのは、アスタの家の装飾が単に番組のセットのようだったからかもしれない。色の付いた壁紙に厚手のカーテン。ドラマの舞台となった1930年代に流行したスタイルだ。
自分は決してデリケートなタイプではないと、アスタは何度も念押しした上で、普段はあの程度の音を気にしないが、何か悪いことが起きているように聞こえて通報したと話した。何かが床に落ちて壊れる音がしたが、ジュリアス・ハベコストの部屋のドアをノックしても返事はなく、誰かが来たり去ったりする音もしなかったという。そして、隣の住人が窓から飛び降りて即死したことを2人の警官から聞かされた。2人にずっと張り付いていたアスタは、彼らの一番の証人だ。ただし、レイフ・スコウビーは一人でドアを蹴破って、室内に入っている。
「音のこと、アスタはウソをついてるのかもな。倒されたり、壊されたりした物は見当たらなかった。彼女が言ってたような騒ぎが起きたとは思えない。室内は荒らされてなかったという、両警官の証言もある」マークが片目をこすりながら言った。
ローランドは自分も睡魔に襲われつつあると感じた。
「確かに少し不可解だ。彼女が聞いた音は、別の部屋のものだったのかもしれんな。昔ほど聴覚は鋭敏じゃない、とも言ってた」
「だとしたら、奇妙な偶然の一致というやつだ。ともかく、ハベコストの司法解剖の結果を待とう。もし争いがあったなら、検死官が明らかにするさ」マークが期待を込めて言う。
ローランドは車を止めた。2人が乗っているのはIPGUの専用車両で、ローランドは週交代の当直勤務中だ。次の事案が発生した際、すぐに出動できるよう、この車で自宅に帰るというわけだ。
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